2012.12.11

NY訪問記(その3)

ということで想像以上に反響を頂いてしまった広島の件を挟みましたが、NY訪問についての日記第三弾。切りないんで今回で終えようと思っております。MoMAの新館は我らが谷口さんの設計なわけですが、これはセントラル・パークにも言えたことですが、紅葉が綺麗だったので一番いい季節だったのかもしれません。

ということで初日以降も淡々をミュージアムで調査をしていたわけですが、MoMAにも当然足は運びました。時間を有効に使おうと朝イチでいったものの、意外とこれが問題だったのではないかという。結局開館同時に来ようと主に観光客はするので長い行列が・・・。帰る時にはあまり並んでなかったので、朝イチで行くのだったらNew Museumとかだったかもと今は思っております。研究のネタに関しては少し隠しておくというセコイことをしてですね、今回僕が思ったのは近現代を扱う同規模の美術館としてはTATE MODERNの方が上だろうということです。それは、自分がロンドンに留学していたことを差し引いてもそうだと思います。決定的なのは立地とレストラン、ミュージアムショップの違い。美術館というのは基本的に疲れる場所なんですが、ふとしたときにちょっとソファーに座ったときに見える外の風景とかはとてもその訪問においては大切な要素の一つです。これは圧倒的にテムズ川河畔の再開発地区にあるTATEの方が上。二点目が、レストラン。これは今回回ったミュージアム全体に共通すると思うのですが、レストランの広さが足りないと思いましたね。折角美術館にいる方が普段よりも消費意欲高まる僕などが、結局レストランでお金を使えないほど混んでいたのはちょっとなと。さらに、MoMAというのはミュージアムの中で最もリテールを上手く進めてきた館の一つですが、あそこまで行くとデパートだと。特に、書籍の揃いが悪い。TATEのミュージアムショップは、例え展覧会に来なくても、少なくともロンドン市内であれば最も美術関係書の充実した書店として訪れる気になる場所だったんだけれども、これだけ東京にもMoMA Store、コンランショップ、IDEEとかある状況だとややイケてない感じすらしました。

一方で、期待値に対して評価を上げたのはメットです。あんなにモダンだとは思っていなかった。ロンドンとの比較で言えば、ナショナル・ギャラリーと大英博物館の合わせ技的な館ですが、かなり改装の進んでいる大英博物館と比較してもモダンだなあと思いました。とにかく、今回回った大規模館のなかでも圧倒的にwifiが高速でつながったのも印象的。僕自身、新しいミュージアムの楽しみ方ができました。写真は、丁度訪問した日にスタッフが展示のタイトル部を直に貼り付けていたのですよね。面白くて結構しげしげと数分見ていたのです。貼る向きがズレないかをいちいち細かくチェックしてる感じとかも好感持てました。だって、こういう部分も含めてミュージアムですから。

僕は、前の広島のポストでも分かるように必ずしも研究者としては諸手を挙げてミュージアムの維持に賛成するタイプではありません。一方で、ミュージアムにひかれているのも確かです。でも、それはThe Metのようにコレクションが素晴らしいからとか、MoMAのように館全体がブランディングされているからではないんです。もちろん、それも僕が来館を決める要素です。でも、メットのようなエスタブリッシュした館であっても、その片隅では上記のように地味な作業が日々行われている感じも含めて好きなんですよね。つまり、館の人間だって学芸員もいれば、理事会のメンバーもいれば、監視員もいるわけで。一方で、来館者も観光客もいれば、家族連れもいれば、研究者や学生も来る。このような雑多な人々が、雑多なコミュニケーションを行い、このような雑多な人による束の間のコミュニティが日々更新されるある種の社会的空間だからこそ、ミュージアムを面白いと思っているんです。僕が既存のミュージアム保護論にやや違和感を覚えるのはその点です。どこかで、理想のミュージアム像を前提にし、その枠組みにはめこむことでミュージアムを維持しているように感じることがあるんです。それは、ミュージアムの過去や現在の姿を冷凍保存することで、未来へ向けての新陳代謝ではない気がするんです。僕にとって、ミュージアムは僕自身と同じように日々息をし、代謝を行い、時に病気にもなる有機的なものであって、そのためにどのような研究ができるのかというのが基本的な僕のモチベーションなんだろうなあということは、ミュージアムに関しては日々感じていることです。

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