2022.04.10

新年度の読書感想文

展評的な日記はFBへのポストで満足するのだが、本について何かを書こうと思うと、ブログを使いたくなるというこの心性はなんなんだろうか。とりあえず、2022年度が始まる。僕は明日11日から授業だが、感染リスクはあるにしても、やっぱり直に学生と触れ合えると思うとわくわくするものだなあとこの時期はいつも感じる。以下、読書感想文。

最初は、乗代さんの『十七八より』。この本を手に取った理由は多分二つあって、一つはジャケ買い。二つ目は、法政の社会学部メディア社会学科出身に目をとめたから。まあ、同業者だと反応する学部だと思いますし、定期的に知らない作家の本は読むようにしていることもあり。あとがき(実際には、文学賞の受賞作品なので評者のコメントがあとがき)にも記載の通りというか、ややひねりのある文体。ただひねくれていて悪意を感じる場合には最後まで読み通せないものだけれども、読んでいて別に不快感はなく。ああ、比較的若い世代でもこういった、文学らしい文学を書くのだなあという素朴な感動はあり。僕は小説を読んでいるとき、かなりイメージが脳内に視覚化されるタイプなのだけれども、この小説の主人公は最後まであまりイメージがわかなかったことに気づく。

二冊目は、喜始さんの『芸術する人びとをつくる』で、ああ漸くこういった研究が広く共有されるようになるんだなあと嬉しく読んだ作品。ただ、僕は書籍化されているものは、研究書も本として読む癖があるので、本としては好みではないなと。オーソドックスな教育社会学(特に計量系の章はその傾向が強い)の論文が、串にささっている団子のような読後感ではありました。小説、学術書問わず、多少読みづらくても文章としてのスタイルを感じさせる文章が、日本語でも英語でも好きなのかもしれない。

そのうえで、この労作を通読しながら、3点ぐらいのことを考えていた(考えさせられていた)。まず、美大で「何が教えられているのか/学んでいるか」という問いをたてたときに、critの不在がきちっと浮かびあがっている点(5章が該当)。僕は、日本の美大教育において自身の作品のコンセプトの言語化と、そのコンセプトを共有する過程での討論の仕方が十分に提供されていない点はずっと気になっていて、これがある程度質的なデータから明らかになっている点は評価されるべき点だろうと。5章では明示されていませんが、終章でははっきりと「crit」にも言及がある。単純に美大教育の問題というだけではなく、日本の現代美術マーケットを考える際にも、(美大卒の)アーティストの話術や言説化の能力はかなり大きなポイントになると考えているので、この点についてはとても共感のできるものだった。

二点目は、美大生、もしくは芸術生産者のカテゴリー化の問題で、これは素朴に難しいなと。本書では「visual artists」を議論の対象に据えているわけだが、この選択が最善なのかという点は少しひっかかりを覚えた。加えて、以降の話は著者および、同様の関心を持つ後続の研究者に残された課題だろうと思いながら読んでいたが、ここでの「visual artists」というカテゴリーの細分化が、美大ベースなので、学科別カテゴリーに分かれていく点は、少し配慮が必要な点のようにも思う。つまり、本書ではサブカテゴリーは、油画家、日本画家、彫刻家、(工芸家)といったような別れ方になる。入り口はこれでOKだと思うのだけれども、本書の議論の対象である美大生の職業選択の問題へとトランジションが起きる際に、この縦割りカテゴリーは、どこかで横割りのカテゴリーに変化していく(もしくは横割りのカテゴリーと格子を成していく)ことを意識した方が良いのではとも感じていた。どういうことかと言えば、油画や工芸の学生の方が相対的にコンテンポラリーな作品として評価される生産者として認知されていくのに対して、日本画家は伝統的な作品を制作する作家として評価されていくという出口の特徴に基づいた移行の問題。だとすれば、前者はマーケットベースで作品を販売することが主流の生存戦略になっていくのに対して、後者は例えば、相対的に地元での画塾、高校の美術教員といった美術に関わる非制作職、もしくは公募展団体での評価を通じた(マーケットを通す必要がない場合も多い)作品の販売といった異なる生存戦略をとれる、つまり卒業後の生存戦略が変わってくるはずで、ここのサブカテゴリーが出口でどういった時代の作品として理解されるかが、結構影響力を与えるのではないかと考えたりもしていた。ここ、読書感想文だと上手く説明できないのだけれども、多分本書では考慮されていない点のように感じる。(し、そもそも重要なのかもちょっと確信が持てない)

最後に、これ美大論ではあるのだけれども、ある程度研究職を考えている文系の大学院志望、特に人文、および人文より社会科学の学部生の方に読んで頂きたいなという書籍だとも思う。著者のバックグラウンドは教育学なので、比較的研究蓄積の分厚い、一般的な大学から社会人へという流れとの相対的な比較をところどころ念頭において議論がなされているけれども、この大学(大学院)への進路選択、そして卒業後の職業(進路)選択の流れは、文系の修士院生の感覚に近いなと感じながら読み通した印象はある。今後は出口側にフォーカスをするということなので、今後のご研究も楽しみだなと。

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