2014.08.28

秋の夜長が来る前に

ちょっとした読書録を。この二月ぐらい、結構個人的にはしんどかったのですが、それに加えてありがたいことに細々とお仕事の依頼を受けていたこともあり、通勤読書も学術書ばかり。リラックスしなくてはいけないなと思い、お盆後に読んだ文庫本2冊。

乾石智子 (2014) 『夜の写本師』 創元推理文庫

僕は比較的ダーク・ファンタジー的なマンガや小説を良く読むのですが(例えばマンガであれば『クレイモア』とか)、「写本」の響きと本の帯にひかれ購入。単純にストーリー自体も良く練られている印象はあったのですが、想像力に欠けるのか、意外と俺って魔法で起きていることを脳内視覚化することが下手だということに気づきました。

ただ読み終わって思ったのは、乾石さんの作品って「魔法とは何なのか」ということが一つのテーマとしてあるようなので、メディア研究に関心がある人にとっては、結構面白いんだろうなあということ。つまり、日本語でいうところの「呪」って、ある意味では発話のパフォーマティブな機能が神秘的なレベルにまで高められたものなので、口頭でなんらかの意志を成就させる魔法ではなく、最終的に主人公が書くことから力を得ていくというプロセスは、なんとなくトロント学派のことをぼんやりと考えながら読んでいました。

柴崎友香 『青春感傷ツアー』 河出文庫

これはまあ芥川賞関連の季節柄という話と、創元の文庫本は字が小さく長いので、もっと楽に読めそうな文庫本をと思い購入。話自体に共感できたかというと、そうでもないんだけれども、ミニシアターで90分程度にまとめる映画の原作としてはいいのかなあと。むしろ、この作品はテクスト的ではなくて、編集され映像化されるような想像力を喚起させるような印象。

主人公の二人がしていること自体は、恐らく大半の人にとってそうそう簡単に決断できるようなことではないんだろうと思うけれども、終始二人の間で描かれているのは、日常であり、素朴な感情の起伏なので、コントラストの弱い、引き気味のカメラで終始撮影していくと、緩やかに動く二人の感情の起伏が、じんわり、じんわりと伝わっていくような小説なのかなあと。

ということで、通勤読書のバランスを再考して新学期を迎えようと思います。秋の夜長に何を読もう?

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